誰でも作れそうなロゴやグラフィック、
なぜ、佐藤可士和には許されるのか?
アートディレクターでありながら、優秀なコンサルタントでありプロデューサーでもあるから
実は、ものすごくクライアントのことを考えている。企業戦略の中心にデザイン思考をもってくるという方法をあみだし、その成功が多くの企業に影響を与え、デザイナーの役割の幅を広げた。これは革命です。
見た目だけ参考しても無意味。佐藤可士和の実績や立場、仕事の進め方や仕上がりまでのプロセス、依頼主の気持ちの持ち方、全てひっくるめて成り立っている。あの誰でも作れそうなシンプルなデザインは普通はOKが出ない。佐藤可士和だからOKが出る。そういうポジションを作り上げた。それら全て含めて佐藤可士和のすごさ。
佐藤可士和のすごさ:話題性の高さ

いい意味でも、悪い意味でも話題性が高い
佐藤可士和のデザインは、とにかく目立つ。テレビやワイドショーなどメディが取り上げる。記事になる。ネットニュースになる。SNSで話題になる。もしかしたら、それも含めて佐藤可士和のしかけなのかもしれないけど、他のデザイナーにお願いするより圧倒的に注目度が高く、宣伝効果が高い。
佐藤可士和は、広告がめちゃめちゃ上手い
「人が目にするもの全てがメディア」そう捉えている佐藤可士和は、有名建築家と組んでの大胆な店舗設計、街全体をメディアと捉えらキャンペーン。有名WEBデザイナーと組んでの斬新なネット戦略。ありとあらゆるツールを全てアイコン的に統一させることで、全てがつながって一つの大きな注目を浴びることになる。

SMAPのアルベムキャンペーンの時は、街をメディアととらえ、街のビルボードをはじめ、路上駐車中の車をカバーで覆ったり、ラッピングバスを走らしたり、SMAPの自動販売機を作ってジュースを販売したり
UTの時はTシャツをドリンクボトルのようなケースに入れて販売、壁一面にボトルが並ぶ姿は圧巻です。こんなことされたら、メディアは取り上げないわけにはいかないでしょう。
シンプルすぎて分かりづらい。売り上げが落ちた
注目度が高いだけに、SNSで批判されることも多い。シンプルすぎて分かりづらい、売り上げが落ちて元のデザインに戻した。デザインの敗北などと批判される。それはどのジャンルでも同じこと、今の時代、有名になればアンチも増える、批判も増える。それだけみんなに注目されているということ。
佐藤可士和のすごさ:ブランディング力

佐藤可士和というとロゴデザインのイメージが強いですが、ロゴというよりロゴから始まる企業ブランディング。まず佐藤可士和にブランディング依頼をすると、企業のトップと何度も何度も長時間にわたるヒヤリングを行う。コンセプトは何なのか、どういう思いで経営しているのかを徹底的に引き出す。
まず課題を見つけること
企業の課題を考え、解決する方法を導き出す。その中で、ロゴを刷新してコンセプトを明確にする場合も多いし、長年その場その場でデザインしてきたバラバラなツールを統一することもある。
企業が向かうべき方向を明確に示すことまでデザインする。企業戦略から店舗設計まで手掛ける佐藤可士和は、人の目に触れるものは全てメディアととらえ、CMや看板はもちろん、レシートから紙袋、商品タグや制服にいたるまで、徹底的にデザインする。それにも留まらず、消費者には見えない社内ツールまでデザインすることで、社員のモチベーションを上げることまで考える。
デザイナーでありながら、優秀なコンサルタントでありプロデューサーでもある。

実際ユニクロやツタヤのイメージは、おしゃれと無縁のイメージでしたが、佐藤可士和が手がけたことによりブランドイメージが大きく変わりました。釣具メーカーであるDaiwaに至っては、これを機にファッション展開が始まり、このロゴを大きくあしらったウエアは人気となっています。
佐藤可士和のすごさ:打ち合わせの質

佐藤可士和のすごさは、見た目のカッコ良さだけじゃない
シンプルでスカッとしたデザイン、つい参考にしたくなりますよね。でも、表面だけなぞっては意味ないし、そんなの作ったら手抜きだと思われる。佐藤可士和のすごさは、見た目ではなく中身。
クライアントと丁寧な打ち合わせをし、ドクターのように問題点を洗い出す。課題を整理し解決する方法を導き出す。シンプルなデザインはそういった整理整頓から生み出される。
見た目を参考にしないで、仕事の仕方を参考にするべき
佐藤可士和の打ち合わせはクリエイティブ。課題や問題点、コンセプトやアイデア、実行計画から表現のディテールまで、クライアントと一緒に作り上げていく。打ち合わせの中でアイデアが固まるので、あとはそのアイデアを形にするだけ。打ち合わせの中で一緒に決めてきたことなので、デザインのアウトプットにもクライアントとの意識のズレも少ない。
時間の使い方も上手い
多くの仕事が同時並行で進んでいるのに、上手くこなせているのは打ち合わせの質が高いから。ヒヤリングだけして持ち帰ってアイデアを考えると時間がかかってしまいます。打ち合わせの中でアイデアをまとめるので、考える時間は不要。打ち合わせ以外はデザイン作業にあてることができる。時間の使い方や打ち合わせに対する姿勢を参考にしたい。
佐藤可士和は危ういデザイン

究極までにシンプルなデザインは批判の的になりやすい。デザインのセオリーを無視してる。ロゴの形が綺麗じゃない。シンプルすぎてわかりづらい。デザイナーのエゴ。なぜ日本語を排除した?など、削ぎ落としすぎるデザインは批判されることもある。でも、話題になるほど注目されているというのもすごいこと。デザイナーは基本裏方で、一般人がデザイナーを意識することは本来少ないですから。それほど話題性のあるデザイナーということは間違いありません。
ロゴデザインの完成度への批判
ユニクロ、GU、楽天などのロゴデザイン、同じ幅の線と正円のみで構成されたデザイン。
欧文書体でロゴデザインする時、プロならこんなことはしません。書体デザイン的に言うと、完成度が低く素人が作ったようなデザイン。人間の目の特性上、縦横同じ幅でも同じ幅に見えない、これを同じに見えるように調整するのがデザイン。世界最大級の書体会社、Monotype社の書体デザイナー大曲都市により、こんな指摘がありました。
縦線と横線が同じ幅だと横線の方が太く見えてしまうので、横線はやや細くなる。また曲線と直線では、曲線の方が少し細く見えてしまうことが多いので、曲線はやや太めにする
真円率の調整。真円は人の目には菱形に見えるため、やや四隅を膨らませる。円とGを重ねる(それぞれ赤と黒)とGの方が膨らんでいる(黒い淵が出ている)ことが分かる。また円形はGのプロポーションとしては広すぎるため、やや狭める。これは書体によるが。
https://tosche.net/ フォントは普通、縦線より横線が太い。また、円も正円ではない。
よっぽど何か狙いがない以上、こんなの作ったら素人かと怒られます。何も知らずにマネなんてしたら、お前出直してこい。て言われるがオチ。佐藤可士和のデザインを、表面上だけ参考にすることだけはやめた方がいい。
佐藤可士和のロゴは、誰でも作れる
微妙に曲線いじったりしていないので、同じものが簡単に作れる。縦が細く見えるとか、そういう次元の話ではないんだと思います。書体デザインのセオリー、ご本人は流石に分かってやってるんだと思いますが、なぜそうしてるのかを知らずに参考するのは危険すぎます。
なぜ、書体デザインのセオリーを無視するのか
書体デザインのセオリーを完全無視したシンプルすぎるデザインは、再現性を重視しているという話もあります。
- 縦横幅が同じなので、素人でも作れる
- 色ブレしづらい色設計
例えば店内POPを書く時、太マジックで素人が簡単に書けるし、ロゴの印象が変わらない。落合陽一さんが番組内で三井物産のロゴを、黒テープを使ってその場ですぐ作ったのが印象的でした。一瞬で作れるこんなロゴは他にないと。色設定の%がシンプル。明治学院大学のロゴはスミ100%とY100%、インキ100%なので色ブレは最低限におさえることができて、あらゆるものに展開しやすい。
文字というより「アイコン」「図形」や「記号」と考えられた形状
文字ではなく図形・記号である方が展開がしやすいからなのかも。汎用性の高さ全体で考えていると思う。例えばGUのGがクルクル回したくなった場合や、横向き、斜め向きに置きたくなった場合、正円が一番違和感がない。そういう「展開しやすい形」を考えているんじゃないかと思う。
ここまでロゴを打ち出すデザイナーは珍しい

正直、個人的に佐藤可士和のロゴを単体で見た時に美しいと思わないものが多い。ただし、ロゴ展開となると話は別。様々な展開で見え方が変わってくる。ロゴの役割まで考えてデザインしているから、この形なんだと思う。ロゴを大々的に打ち出す佐藤可士和のスタイルは、とにかくロゴが目に入る。
そこが佐藤可士和らしさでもあって、妙な違和感がアルファベットであるけど、アルファベットではないような、文字じゃない、図形なんだ。アイコンなんだ。そういう強い意思が感じられるから成立しているんだと思います。

美しいとか、美しくないとか、そういう次元の話ではなく、ヘタうまイラストが成立するような、服部一成のようなデザインが成立するような、既存の美意識よりもっと先の感覚なのかもしれません。
デザインの敗北
佐藤可士和さんのようなデザインは、批判がおきやすいし、大きな失敗のリスクもある
佐藤可士和への批判
- 使う人を無視してる
- デザイナーの自己満足
- カッコつけすぎて分かりづらい
カッコいいしインパクト強いけど、なんだか分からない。特に一瞬で認識してもらいたい商品デザインにおいて、失敗することもありました。SNSで話題になった「セブンコーヒー」「キリンレモン」「ウィダーインゼリー」。
攻めすぎたデザインが、ユーザーとのズレがあった
情報を絞って、シンプルでカッコよくしすぎたら、分かりづらく「○○っぽくなくなった」ということだと思います。博報堂内をスケボーで走るくらいやんちゃな方なので、保守的なデザインは好まないんでしょう。リスクをとってでも攻めたデザインが、大きな成功がある一方、時に失敗を生むことがあるでしょう。
この攻めのデザイン、失敗しても佐藤可士和なら許されるかもしれませんが、普通のデザイナーなら二度と仕事は来ません。
SNSで話題になった、セブンコーヒー、キリンレモン、ウィダーインゼリー
一番有名なセブンコーヒー。テプラだらけのコラも作られたり、SNSで大いに盛り上がりました。でも、これによってセブンコーヒーの認知はとても高まったので、実は宣伝効果としてある意味成功なんじゃないかと思ったり。
「キリンレモン」と「ウィダーインゼリー」は、買う人が見えてなかった例だと思います。このデザインのキリンレモンを子供は選ばないし、ウィダーインゼリーは単純に分かりづらい、海外用の商品っぽくて日本向けの商品に見えない。
何かの番組で可士和さんがキリンレモンのパッケージデザインしているシーンが流れ、妻の佐藤悦子さんが「何かお酒っぽくない?」と言っていたけど、変更しなかったことが印象に残っています。身近な一般人の意見をどこまで取り入れるかは微妙なところではありますけど、多くの人もお酒っぽいと思ったようです。
他の有名デザイナーも、参考にならない場合が多い

学生時代は好き勝手デザインできる。
どれだけ自分の世界観を作れるか、斬新なアイデアが出せるか。
そんな風にデザインを勉強してきたと思いますが、社会に出てからのデザイン現場では求められることが全然違う。佐藤可士和に限らず、有名デザイナーを参考にしても、実際の現場では全く役に立たないことが多い。JAGDA年鑑に載るような、デザイナーが素晴らしいと思うような斬新なデザインは、一般的なデザイン現場では求められていないことの方が多い。
クライアント「こんな風にしてほしい」
依頼者からは、ある程度イメージが固まった状態で仕事を振られることが多い。デザイナーが入るより先に社内でどういうデザインの方向性にするかなど話し合うのです。その話し合い段階でデザイナーも参加出来ればアイデアを出したり提案もできるけど、その段階から参加することはほとんどありません。大きなプロジェクトでもないかぎり、デザイナーは最初から参加しません。
有名デザイナーは、プロジェクト立ち上げから参加する
まずスタートが違うので、求められるデザインが違う。だから参考にできることが少ない。デザイン年間に掲載されるようなアート作品のようなデザインができるのは、センスや技術の問題ではなくて、立場や求められることの違いによるものです。
多摩美を卒業し広告代理店を経て独立、そういったエリート街道を通ってきた方と、専門学校を卒業しよくわからない制作会社を経て独立した僕とでは、もらう仕事も求められるデザインも全然違う。
実際のデザイン現場では、デザイナーの趣味やコンテクストなど求められていない方が多い。デザイン素人のクライアントが「俺のデザインラフをもとに、そのまんま仕上げてくれ。」なんてことがあるくらい、デザイナーの扱いや求められることに差があるのです。
まとめ
佐藤可士和が参考にならない理由
- 土台が違う。立場が違う、依頼者からの扱いが違う
美大卒で広告代理店から独立、広告賞などを取った方にくる仕事は質が違うので参考にならない。 - 表面上のデザインを参考にしても何も意味がない
佐藤可士和さんのすごさは、仕事の仕方や考え方など見えない部分にある、上辺だけ参考にしても無意味。
多くのデザイナーに求められるスキルは、今っぽく一般人にも理解できる丁寧なデザイン。
ファッションショーが一般人に理解できないように、有名デザイナーのデザインは一般人に理解されずらい。一番求められるデザインは、ファッションでいうところのセレオリ(ジャーナルスタンダードやユナイテッドアローズ)みたいな立ち位置のデザイン。
デザイナーからしたら退屈かもしれない、こういうのが好きなんでしょ。ていうデザイン。依頼者から「こんな感じのデザインにしてほしい」を、そのままパクるんじゃなく、「こんな感じ」のニュアンスを汲み取りながら、自分なりにデザインする力。丸パクリじゃないバランス力や最低限の文字組みや、きれいな見せ方ができる人が求められています。
もちろん、全てが言いなりではないしアート性や独自アイデアが求められることもありますが、割合的には少なめ。特にアート性が求められるデザインほどOKが出づらく仕事が難航する傾向にあります。実績が少ないデザイナーが提案する、見たことがないデザインは依頼者側も判断が難しいからです。
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